グローバル化が加速する中、これからは日本でだけでなく、世界で活躍する人材が求められています。そんな人材を育てるには幼少期にどんな教育が必要なのでしょうか。スタンフォード大学 創薬機器研究所所長という立場で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発などを主導する西村俊彦氏と30年の実績がある東京・田園調布の幼児教室 つくし会本部代表の石井大貴氏が語り合いました。
活躍の共通項は「いろんなことに興味が持てる人」
西村所長は、麻酔科チェアマンRonald G. Pearl 先生と25年間研究・臨床・教育をされてきた経験もおありで、ご自身の研究だけではなく、多くの人材育成や学生への指導を行ってこられました。そうしたこれまでご経験を踏まえて、スタンフォード大学が輩出してきた世界に誇る人材の共通点は何だと思われますか。
西村所長
●自分の経験からいいますと、「いろんなことに興味が持てる人」です。すぐできる夢から途方もない夢まで見る人。夢を夢で終わらせないように日々努力する人。心技体というか、文武両道を心がけている人が多いと感じます。
石井代表は、TBS テレビに15 年間在籍した後、つくし会幼児教室を運営するLOCON株式会社を立ち上げました。なぜ、全く違う道に進まれたのでしょうか。
石井代表
●在職中、メディアの研究をつきつめ、脳科学の分野で学位を取得しました。それがきっかけで、金沢工業大学大学院の教員として採用していただきました。様々なチャレンジの中でも、一番興味を持ったことが幼児教育です。母が30 年続けてきたつくし会幼児教室に自分の子2人を通わせたことによって、子どもと親が一緒になって成長することの魅力や楽しさを知り、幼児教室の存在意義を強く感じ、起業に至りました。
目標を持つ前に意識したい3つのこと
世界に誇る人材を育てるために、日本に今どんな教育が必要だと思われますか。
西村所長
●日本の教育には、基礎を大事にするという強みがあります。それに加えてこれからの教育では、大谷翔平選手やイチロー選手のように、自分の好きなことを追求し、やりたいことのためにルーチンを徹底し、取り組む力を育む必要があります。また、自分のやりたいことを明確に表現する言葉の力も重要ですね。
石井代表
●イチロー選手の小学生時代の文章はあまりにも有名で、目標がとても明確でした。プロ野球に入るという記述だけではなく、具体的な球団名まで記されています。このように、好きな道で輝くためには目標を持つことが重要です。しかし、その前にもっと重要なことが3つあります。1つは、やり抜く力を育てること。どんなに好きなこと、やりたいことであっても、苦しいことや辛いことに必ず直面します。それを乗り越えるだけのやり抜く力を育む必要があるのです。2つ目は、自分の中の善悪の判断をしっかりと持つことです。自由と勝手は違いますから、人に応援してもらうためにも、自分自身の善悪の基準を持つことは重要です。3つ目は、西村先生からあった言葉の力です。幼児期には流暢に話すということよりも、目を見て話す、挨拶をするといったコミュニケーションの基礎を磨くことが重要だと考えています。
幼少期の「好き・やりたい・やるべきこと」を大切に
幼児教育から世界に誇る人材を育てるための方法論はあるのでしょうか。
西村所長
●私は5人兄弟の末っ子で多くの人に囲まれながら育ちました。自然の中で育ったこともあって、そこから生命の神秘や面白さを知ったことが、今の仕事につながっていると思います。3つ子の魂百までと言いますが、幼少期に興味があることとしっかり向き合うことが大切だと考えています。
石井代表
●西村先生のように、幼少期から多くの人達の中で揉まれることは、2つの観点から重要だと思います。1 つは、コミュニケーションについて学ぶこと。2 つ目は、多くの人との関係性の中で、自分の役割や特性について知ることだと思います。昨今では、ダイバーシティの重要性が叫ばれています。人の良さを引き出し、共生するというのが真意ですが、自分の特性や長所を知らない人が、人の価値を理解することはできません。幼少期には、自分を良く知るきっかけとして、『やりたいこと・やるべきこと』に集中して取り組むことを教えることが重要だと考えています。
人と比べずどんどんチャレンジしてどんどん失敗を
世界に誇る人材を育成するために、幼児教育が大切な理由はなんでしょうか。
石井代表
●幼児教育では、失敗を恐れず『やれば、できる!』の精神で様々なことに根気強くチャレンジすることに価値があると思います。人のことよりも、まず自分のことに集中して取り組むこと。それは、人と比べず、好きな道で輝くために重要なことだと考えています。大きい話しになってしまいますが、人と比べずに自分のやるべきことに集中すること、他者をリスペクトすることは、戦争のない平和な社会を実現するためにも必要なことです。
西村所長
●スタンフォード大学には、fail fast fail betterという言葉があります。これは、どんどんチャレンジしてどんどん失敗すること。そして、失敗したとしても別のやり方で次に進むことの重要性を説いた言葉です。小さい時から親子で意識して取り組んでいただきたいと考え、この言葉をエールとして送りたいと思います。