会報誌

地域に根ざしたスポーツクラブで子ども達に夢を しながわシティスポーツクラブ球団社長 沢田 洋和球団社長インタビュー

東京23区の中でも子育て支援に力を入れており、ファミリー層からも人気の高いエリアの一つである「品川区」。その品川区をホームタウンとして、フットサル・バスケットボール・ビーチバレーボールのプロスポーツチームを運営しているのが「しながわシティスポーツクラブ」です。フットサルにはキッズ向けの下部組織もあり、トップ選手から直接指導を受けられることもあって注目を集めています。また今年4月には、全国で2校目となるサッカー専門学校を開校したことでも話題に。そんな「しながわシティスポーツクラブ」の沢田 洋和球団社長に、スポーツを通じた教育の大切さや地域に根ざした活動の意義などについて伺いました。

沢田 洋和氏プロフィール

1980年東京都品川区生まれ。日本大学法学部卒業後、国会議員秘書を経て品川区議会議員を3期務める。株式会社AOKISI代表取締役。2022年8月より、一般社団法人 しながわシティスポーツクラブ球団社長に就任。

スポーツで子ども達に夢を与え地域を良くしたい

石井氏
―政治家から転身されたという異色の経歴をお持ちですが、球団社長に就任された経緯からお聞かせください。

沢田氏:私自身が品川で生まれ育ったということもあり、大好きな品川のためにできることをしたい、これから品川を愛してくれる子ども達を地域全体で育てていきたい、と思いながらずっと政治をやってきました。私は、「縁」とか「一期一会」という言葉がすごく大切だと思っていて。人と人のつながりを大事にしながら、より良い世の中にしていきたいというのが、私の政治家としてのモットーでした。球団社長に就任したのも、その延長線上だと思っています。子ども達に夢や希望を与えられるというのがスポーツの良さであり、それは結局、地域や世の中を良くしていくことにもつながる。そういう意味では、政治もスポーツもできることは一緒だと思うのです。

石井氏
―そもそも、しながわシティスポーツクラブ(以下「しながわシティ」)はどのような背景で設立されたのでしょうか?

沢田氏:しながわシティの代表理事である大栗 崇司さんとは、お互いに20代のころから、一緒に地域を良くしていこうという話をしていて。品川に何かシンボルを持ってきたいという思いもあり、地域に根ざしたスポーツクラブを作ろうということになりました。当時私は政治の世界にいたので、それを政治の側からサポートしていこうと。もともと大栗さんはサッカーが大好きだったのですが、サッカーだと広いグラウンドが必要で品川では難しいですよね。その点、フットサルなら体育館があればできるので、フットサルをやろうと。その後、同じく体育館でできるスポーツということでバスケも始め、さらにオリンピックのときに品川で開催された競技ということでビーチバレーも加わりました。そして、これらの競技を応援するチアのチームも抱えることになり、今ではかなりの大所帯になっています。

技術だけでなく基本的な教育を大切に

石井氏
―フットサルには、下部組織となるキッズチームもありますよね。

沢田氏:三年前にしながわシティが誕生してすぐに、もともと地元の子ども達にフットサルを教えていた方たちと一緒にスクールを始めました。今はしながわシティのトップ選手たちが直接指導しています。練習の様子などを見ていると、子どもが好きな選手たちが多いなと思いますね。みんな指導がすごく上手なんです。自分たちも小さいころからスクールなどで教わってきた経験があるからか、子ども達に技術を伝えるのがうまい選手が多いですよ。

石井氏
―子ども達に指導する上で、ここは譲れないというポイントなどはありますか?

沢田氏:フットサルの技術を教えることも大切ですが、私たちとしては、教育という部分で子ども達に意識づけをしていきたいなと。例えば、フットサルとバスケの選手って、それぞれかなり色が違うんです。フットサルは、まじめで練習も淡々とやっていく選手が多い。一方、バスケはどちらかというと華やかで自由な感じ。これはどちらが良いとか悪いではなくて、それぞれのスポーツの色ですよね。でも、どのスポーツにも共通している部分があるんです。それは「あいさつをする」「ごみをきちんと分別する」「試合会場できれいに整理整頓する」などの基本的な姿勢です。やっぱり、自分たちのロッカールームがめちゃくちゃになっているようなチームでは、試合も勝てないですよね。そういうところを身に付けているのがプロの選手だと思うので、その点は子ども達にもきちんと伝えていきたいです。


フットサルのキッズチームの様子

石井氏
―教育といえば、育成組織として、今年4月栃木に「シティーフットボールアカデミー」というサッカー専門学校を開校されました。どのような学校なのですか?

沢田氏:シティファミリーである栃木シティフットボールクラブとしながわシティフットサルクラブの育成組織として、栃木県から認可を受けたサッカー専門学校です。大栗さんの家系のルーツが栃木だったご縁もあり、栃木市から廃校になった小学校の敷地と校舎を譲り受けて、サッカーやフットサルの専門家を育てる学校を開設しました。きちんと現場のことをわかっている選手やスタッフを教育する。そして、いろいろな夢や希望を持つ若い人たちに可能性を与えられる場所を作りたい、というのが私たちの思いです。サッカー専門学校というのは全国的にも珍しくて、われわれが2校目になります。そもそも子どもの人数が減っているこの時代に、新たに学校法人を作るということ自体が珍しいようで、栃木県内で学校法人の認可を受けたのも、われわれが何十年ぶりだったそうです。

子育て世代が新しいコミュニティを作っていく

石井氏
―昨今ずっと東京で同じところに住み続けるのは難しい気もするのですが、そういう時代に、地域に根差したスポーツクラブを作るというのはどんな意義があると思いますか?

沢田氏:品川区の人口は40万人を超え、今も増加傾向にあります。一方で、転入転出で年間2万人が入れ替わっている。単純計算すると20年で全ての住民が入れ替わるということで、おっしゃるとおり、地域に根ざした活動というのは難しいところもあります。ただ、新しく品川にお住まいになる方々を見ていると、若い層や子育て世代が多くて、「地域を大切にしよう」「自分たちの街を作っていこう」という思いが強い方が多いように感じます。趣味や学校を通して新たなコミュニティを作ったり、近所のカフェでたまたま出会ってそこから人脈を広げたり、そういうお父さんやお母さんたちの話をよく聞きます。こうした方々が、みんなで一緒にしながわシティの試合を応援しに来てくれたり、選手たちと触れ合ったり、子ども達が下部組織でプレーを楽しんでくれたりするといいなと思っています。いずれは、品川で育った子ども達の中からしながわシティの選手が生まれるというのを目指したいですね。


しながわシティの選手達

石井氏
―ご自身はどんな子ども時代を過ごされていたのですか?

沢田氏:当たり前のことかもしれませんが、両親はいつも「自らが正しいと思う道を進め」と言っていました。あとは、「自分の進みたい道を見つけて、自分で考えて進むべきだ」とも。何かを強制されたということはなかったですね。私は子どものころ、目に入ったものは全て「あれやりたい」と言う子だったんですよ(笑)。両親は、私がそう言うたびに可能な限り全てやらせてくれました。野球がやりたいと言えば野球チームに入れてくれたし、サッカーも水泳もダンスもバイオリンもやらせてくれて。残念ながらセンスがなくてどれも全然うまくなりませんでしたが(笑)、やってみて初めて分かったこともたくさんあったので、決して無駄ではなかったと思います。

石井氏
―実際にやってみないと、スポーツの本当の楽しさもわからないですしね

沢田氏:そうですね。やってみたおかげで、スポーツってできなくても観ることは面白いなと思えたのはいい経験だったと思います。あと、結局私は球技全般が全くだめだったのですが、高校のころ弓道に出会ったんです。それで、これは自分に向いているなと。弓道って実はすごく哲学的な部分があって、そういうところが好きだったんです。大学に入ってからは、弓道の先生の家に住み込んで毎日弓を引いていたぐらい、どんどんはまってしまって。そこまで夢中になれるものに出会えたのも、子どものころにいろいろなことにチャレンジさせてもらって、自分の向き不向きに気づけたからかもしれません。

縁を大切にスポーツで人と人をつなぐ

石井氏
―ご両親以外の指導者や恩師から影響を受けた言葉などはありますか?

沢田氏:私はさきほどもお話した通り、「縁」とか「一期一会」というものをすごく大切にしています。これは私の恩師がいつもおっしゃっていたことでもあるんです。人というのは常につながって成り立っているのだと。その恩師が亡くなる直前、病院で「沢田、お前は今なぜここにいると思う?」と言ったんですよ。今、自分は人生最大のピンチだと。そこにお前がいる。これを縁というんだぞと。亡くなって数年たった今でも、その言葉を毎日思い出すんですよね。日々の生活の中で出会う人だって、みんな縁で結ばれているわけじゃないですか。そういう縁を大切にして、感謝して過ごさなければいけないなと思っています。

石井氏
―今はデジタル社会になって、人と人のつながりを実感できる機会も減ってきているのかもしれません。そういう意味でも、スポーツというのはまさにかけがえのない経験をさせてくれるものですよね。

沢田氏:そうですね。もちろん、デジタルもつながっていると言えばつながっているのかもしれないし、便利になっていいこともたくさんあるんですけど。でもやっぱり私たちは人間だから、フェイストゥフェイスでつながることも大事だと思うんです。スポーツも、テレビで見るのと現場で見るのとでは全然違いますからね。臨場感とか、選手たちの汗とか息づかいを目の前で見ることで、より感動も大きくなりますし。そういう場や機会を、子ども達にもたくさん提供していきたいなと思っています。そして、スポーツの素晴らしさや、スポーツによって人と人がつながっていける世界があるんだということも知ってもらいたい。私たちの活動を通じて、いろいろなことを子ども達に感じてもらえたらうれしいですね。

(聞き手/株式会社LOCOK代表取締役、金沢工業大学虎ノ門大学院准教授 石井大貴)

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