会報誌

英語教育は「焦らず」「じっくり」「永遠に」 SODATU Lab CEO 田井 譲氏インタビュー

世の中のグローバル化が進む昨今、コミュニケーション手段としての英語はもはや必須であると言っても過言ではありません。学校教育の場でも英語の重要度は高まるばかりで、2020年からは小学校での英語教育が必修化されています。このように英語教育の低年齢化が進む中、わが子に少しでも早く英語を学ばせたいと考える保護者の方も増えてきているようです。今回は、全国の保育園・幼稚園などへ子ども向けの英語プログラムを提供しているSODATU Lab株式会社 CEO 田井 譲氏に、幼少期の英語教育において大切なことや英語力向上のためのポイントなどについて伺いました。

田井 譲氏 プロフィール

1986年生まれ、神奈川県横浜市出身。大学卒業後、青年海外協力隊で南米ボリビアにて2年間活動。帰国後、国内の大手メーカーに就職するも、大企業の文化に馴染めず、うつ病寸前で退職。この経験から、「ワクワクすることを仕事にする」と心に決め、子供向けの英会話講師に転職。その後、大人向け短期集中型英会話スクール「スパルタ英会話」に参画し、現在は子供向けの英語教育事業、起業スクール事業などを複数経営。「SODATU Lab(ソダツラボ)」では、全国の保育園・幼稚園などへ、各施設のニーズに合わせたオーダーメイド型の英語プログラムを提供している。

まずは「英語って楽しい!」という経験を

石井氏
―さまざまな保育園・幼稚園に英語プログラムを提供されていますが、理念や大切にしていることなどを教えてください。

田井氏:私たちが大切にしているのは、それぞれの幼稚園・保育園さんがどんな思いを持って園を運営しているのか、そしてその思いに紐づいてどんな英語経験を子ども達にしてほしいと思っているのかをヒアリングしながら、その理想を叶えていくことです。園によって、英語教育に求めることが全然違うんですよね。「英語を使いながら歌ったり運動したり、外国人の先生と楽しく触れ合ったりすることを大切にしたいから、言葉は教えなくていいです」という園もあれば、「英検などの資格対策をがっつりやってください」という園もあります。それぞれのニーズに合わせて、できる限りカスタマイズしてプログラムを提供するようにしています。

石井氏
―幼少期の子どもが英語を学ぶとき、まずは何からスタートしたらよいのでしょうか?

田井氏:保育園・幼稚園に通っている子ども達は、まだ日本語もままならない状態です。その段階で、これが主語でこれが名詞で……などと難しい話をしても伝わらないですよね。ですから、まずはじめの入り口としては、「英語って楽しいものなんだ」と感じてもらうことが大切だと思います。私たちも、子ども達に外国人の先生たちと触れ合う中で、「見た目は日本人とは違うけれども、彼らとコミュニケーションを取るのは全然怖くない、むしろ楽しいことなんだ」と感じられるような経験を提供したいと考えています。

石井氏
―もともと英語が好きな子ばかりではなく、はじめはバリアを張ってしまう子もいると思います。そんなときはどうされていますか?

田井氏:英語に限らず、体操や歌など、どんな教室でも同じだと思いますが、最初は嫌がったり参加したがらなかったりするお子さんも中にはいます。そんなときは、焦らずに時間をかけてアプローチすることを心掛けています。大人が「今日中に絶対にこれをやらせなきゃ」と焦ってやらせようとすると、子どもはますます意固地になってしまいます。ですから、そういうときこそ丁寧にコミュニケーションを取って、焦らずじっくり、でも諦めずに向き合うようにしています。実は、それこそが一番難しいところだったりもするんですけどね。私自身も2歳の娘の子育てをしながら、日々その難しさを実感しています(笑)。

生後間もないころの娘さんと田井氏

トレーニングで英語力は必ず上がる

石井氏
―幼少期から英語に耳を慣れさせておくことで、将来ネイティブのようにしゃべれるようになりますか?

田井氏:よく「子どもは言語の天才だ」と言いますよね。私もまさにその通りだなと思います。ですから、例えば両親のどちらかが英語、もう一方が日本語を話すというような環境で、幼い頃から2つの言語を吸収していれば、どちらもネイティブになっていくということはあるだろうと思います。一方で、あくまでも私の個人的な意見ですけれども、普通に日本の社会の中で生活していて、週に1回外国人の先生と話をするとか、自宅で英語のコンテンツを1日1時間ぐらい聞いているとか、そういったことで子どもがネイティブ脳になっていくかというと、それはなかなか難しいかもしれません。

石井氏
―では子どもをネイティブ脳にしようと思ったら、どのぐらい英語に触れさせればよいのでしょうか?

田井氏:やはりそれだけの量の英語に「浸されている」という状態を作ることが必要です。例えば、インターナショナルスクールに通っていて、毎日5~6時間、先生や友達とずっと英語で話しているというような状況に身を置かない限り、難しいのではないかというのが私の感覚としてはあります。ただ、トレーニングさえ積めば、英語力は必ず上がっていくものです。実際に、学生時代にトレーニングを積んだ結果、社会人になってネイティブとそん色ないレベルで英語を話せるようになったという方も世の中にはたくさんいらっしゃいますよ。

石井氏
―インターナショナルスクールに通っていたり、帰国子女などではなくても、ネイティブ並みの英語力を身に付けられる可能性があるということですか?

田井氏:はい。私は語学とは、まずは母国語に立脚して、そこから次の段階で話せるようになっていくものだと思っています。以前、私自身が小学生・中学生に対して英語を教えていたころ、すごく早い段階で英語力がぐんぐん伸びていく子たちが何人かいました。その子たちの話を聞いてみると、ほぼ例外なく皆、国語の成績が良かったんです。おそらく、母国語である日本語のベースがしっかりできていて、物事をきちんと言語化して考えられる土台があったからこそ、英語も早く習得することができたのだろうと思います。

石井氏
―勉強の体系的なやり方を頭の中で理解できている子が伸びるということかもしれませんね。

田井氏:そうですね。それに加えて、言語を習得するにはただ理解しているだけではだめで、反復練習が欠かせません。それが先ほどお話した、トレーニングを積むということです。例えばテニスも、「こうすればきれいにストロークが打てる」と頭で理解するだけではなく、何度も何度も素振りを繰り返すことで上手になっていきますよね。英語も同じように、実際に声に出したり、文章を読んだりといった反復練習をしているかどうかが上達に大きく関わってきます。これは、いろいろな方を見てきて私が実感していることです。

「学び続けたい」と思える環境を大切に

石井氏
―ほかに英語が上達するためのポイントなどがあれば、ぜひ教えてください。

田井氏:「話せるようになりたい」という思いがどれだけ強いかが、とても重要だと思います。私の場合は、カナダに1年間留学したことがきっかけで、その思いが強くなっていきました。留学中、周りに日本人以外の友達がどんどん増えていき、いろんな国の人とコミュニケーションを取りたい、もっと自分の思いを伝えたいと思うようになったのです。友達に自分の気持ちを伝えたいのに、はじめは全然うまく話せない。どうやって伝えたらいいんだろうと悩みながら、何度もつっかえながら声に出して言ってみる。すると次からは少しずつスムーズに話せるようになっていく。そういう経験の積み重ねが大切なのだと思います。テストがあるからとか、先生や親に怒られるからではなくて、「誰かとコミュニケーションを取りたい」という気持ちが、英語を学ぶモチベーションにつながるのではないでしょうか。

石井氏
―ご自身にとって、留学という経験が大きな転機になったのですね。留学するなら、いつごろのタイミングがベストだと思いますか?

田井氏:本人が望むのであれば、早ければ早いほど良い気がします。私の場合、20歳ごろに1年間留学を経験して自分の人生が変わったと感じていますが、もしあれが中学・高校のころの1年間だったら、さらに大きく人生が変わっていただろうなと思います。30歳よりも20歳、20歳よりも15歳で行くほうが、本人にとってのインパクトが強く残るのではないかというのが私の考えです。

石井氏
―留学と一言で言ってもいろいろな方法がありますよね。どんな方法で行くのがおすすめですか?

田井氏:お金や時間をどれぐらいかけられるかによっても変わってきますが、「英語を話せるようになるためには、まず好きになることが大切だ」と考えると、いきなり高いハードルを設ける必要はないと思います。最初は日本人の仲間と一緒に、短期間でもいいから海外に滞在してみる。そして、滞在先での経験を楽しんで帰ってくる、というのが良いのではないでしょうか。そうやって無理のないところから始めて、次は自分で留学先を探して、申し込みの手続きもして……というように、徐々に自分でハードルを課していくのが理想的かなと思います。

石井氏
―最後に読者の皆さんへ、お子さんの英語教育を考える上で大切なことなどについてメッセージがあればお願いします。

田井氏:私は、語学は「焦らず、じっくり、永遠にやり続ける」ということが大事だと思っています。私の周りにいる英語がとても上手な方たちも、まだまだトレーニングを続けている人が多いです。一度学んで習得したと思っても、使わなくなると忘れてしまうので、永遠にやり続ける必要があるのです。ですから、お子さんの英語教育についても、どうやったらお子さんが「焦らず、じっくり、永遠にやり続けられるか」を考えて環境を整えてあげることが重要だと思います。この子がこれから先の人生、10年20年と長い時間をかけて英語を学び続けたいと思えるにはどうしたらいいか。そんな視点で、英語を楽しむこと、好きになることを大切にしてあげられると良いですね。

(聞き手/株式会社LOCOK代表取締役、金沢工業大学虎ノ門大学院准教授 石井大貴)

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