会報誌

ひたすら基礎を磨いた幼少期から全日本チャンピオンへ ~元プロテニスプレーヤー 今西 美晴さんインタビュー~

老若男女問わずプレーできて、子どもの習い事や学校の部活としても人気の高い「テニス」。幼いころからテニスを習うことは、運動能力だけでなく、忍耐力や集中力などを向上させるメリットがあるとも言われています。そんなテニスを7歳から始め、全日本テニス選手権で三冠を達成するなど、日本のトッププレーヤーとして活躍した今西美晴さん。昨年末に引退したばかりの今西さんに、テニスとの出会いや幼少期の練習法、現役時代につけていた「分析ノート」の内容などについて伺いました。

今西美晴氏プロフィール

こ京都府出身の元プロテニスプレーヤー。7歳からテニスを始める。高校3年生のときに全国高校選抜大会シングルス優勝。卒業後は、会社で働きながらアマチュア選手として2年間活動したのち、プロに転向。全日本テニス選手権で3種目(2013年ミックスダブルス、2016年女子ダブルス、2017年女子シングルス)すべてでタイトルを獲得。海外の大会にも数多く出場。2022年12月に現役引退。

コート1面に20人がひしめき合う中で培った「基礎」

石井氏
―まずはテニスを始めたきっかけから教えてください。

今西氏:ある日家族でプールに遊びに行ったのですが、運悪く雨が降ってきてプールに入れなくなってしまって。そこで、たまたま近くにあった、オートテニスという屋根付きの施設に入ったんです。親に「ここなら雨でも遊べるよ」と言われて。オートテニスというのは、 マシンから出てきたテニスボールをテニスラケットで打ち返す、バッティングセンターのテニス版のようなものです。それがとにかく楽しくて、「もっとやりたい!もっと!」といつまでも打ち続けていたそうです。そんな私の様子を見て、親が「そんなに好きなら習ってみるか」と言ってくれて、家から一番近いテニススクールに通うことになりました。

石井氏
―今西さんがテニスを始めたのは7歳ということですが、そのぐらいの年齢から始める人が多いのでしょうか?

今西氏:いや、私は遅い方だったと思いますよ。親御さんがテニスをやっていたり、兄弟が習っているという子は、もっと早く3~4歳ぐらいから始める人が多いですね。私の場合は、もともと両親がテニスをやっていたわけでもなかったですし、強制的な感じは全くなく、私がやりたいと言えば応援してくれる、というスタンスでした。

石井氏
―小さいころから個人スポーツをやっている子は、両親がつきっきりで練習や試合に同行しているようなイメージがありますが、今西家はどうでしたか?

今西氏:私の家の近くには電車もなくて、どこに行くにも車がないと生活できなかったので、最初のころは練習や試合のたびに車で送迎してもらっていました。でも、小学校2年生ぐらいからは「一人で行っておいで」という感じで、新幹線にも一人で乗っていましたよ。寝過ごしてしまうと大変なので、親がよく車掌さんに「目的地に着いたら起こしてやってください」とお願いしていました(笑)。当時は携帯電話も持っていませんでしたが、一人で新幹線に乗って、東京で在来線に乗り換えて試合会場まで行ったりしていましたね。

石井氏
―小さい頃からすごく自立したお子さんだったんですね。テニスの面ではどんなプレーヤーだったのでしょうか?

今西氏:やっぱりそのころから「1球でも多くコートに返す」「ツーバウンドするまで諦めずに追いかける」という、今のままのプレースタイルでした。当時通っていたスクールが、コート1面で20人ぐらいの子たちがレッスンを受けているような環境で。練習時間も一時間半と短かったので、球を打っている時間も少なく、コート全面を使った練習もほとんどできませんでした。広いコートでプレーできるのは試合のときだけ、という状況だったので、できることが「1球でも多くコートに返す」ということしかなかったんです(笑)。組み立てがどうとかパターンがどうとか、そういうレベルではなくて、とにかく基礎・基礎・基礎という練習だけをしていましたね。

石井氏
―スクールでは、同じことを繰り返す反復練習などがメインだったのですか?

今西氏:そうですね。ラリーの練習というよりは、ずっと球出しなどの基礎練習ばかりしていました。あとは、ボールを打っていないときはずっと走っていなさい、と言われて、ひたすらコートの周りをランニングしていました。今思えば、そういうところで体力が培われたのだと思います。

対戦相手の弱点などをノートに書いて徹底分析

石井氏
―中学・高校時代は部活でテニスをやっていたのですか?

今西氏:中学校では陸上部に入り、部活が終わってからテニススクールに通っていました。陸上部では、短距離と長距離の両方に取り組んでいました。全国大会に出るようなレベルではなく、県大会の予選だけ出場して終わり、という感じでしたが、走ることは好きだったので、テニスの試合と重ならなければ出るというスタンスでやっていました。
高校ではテニス部に入部し、スクールはやめて部活に専念しました。私、高校の部活に入って初めて、3時間も練習したんです。それまではそんなに長時間練習したことがなかったので、入部してすぐにけがをしてしまいました(笑)。スマッシュ練習のしすぎで腹筋が肉離れしてしまったり……。でも、それも含めていい経験になりました。一番真剣にテニスと向き合ったのが高校時代でしたね。

石井氏
―いつごろからテニスで生きていけるかもしれないと意識し始めたのですか?

今西氏:「テニスで生きていける」というほどの自信ではなかったかもしれないですけど、プロを意識し始めたのは小学校2年生ぐらいからですかね。初めて大会で優勝したんです。といっても、柔らかくて軽いスポンジボールを使った子どもの大会だったのですが(笑)。それがすごくうれしくて、スポンジボールの大会で優勝しただけなのに、「プロになりたい!」と。そのころはとにかくボールを打つのが楽しかったですね。それが「1球でも多くコートに返す」というプレースタイルにつながっていったように思います。

石井氏
―はじめは「とにかくボールを打つのが楽しい」という感覚だったのが、いつごろから戦術などを考えるようになったのですか?

今西氏:あるとき、やっぱりそれだけでは勝てなくなってきたんです。相手に打ち込まれることも多かったので、「自分もああやって打てるようになりたい」と思い始めて。そこから自分のプレーについていろいろと考えることが多くなりました。やっぱり、負けると悔しいんですよね。悔しいから、ノートなどもきちんとつけるようになりました。相手のここが弱点だとか、この球がよかったとか、実際に対戦したときに感じたことを書いて分析していました。詳しいデータは携帯などでも全部見られるので、ノートにはそういう細かい数字よりも、自分の感覚を書き留めていましたね。

石井氏
―一度対戦した相手と次にやるときには、ノートに書いたことを生かして試合に臨むわけですね。

今西氏:はい。ノートを書くようになってからは、それを見ながら対策を練って練習していたので、同じ相手に同じ負け方をすることはありませんでした。試合では、その日の相手の感じを見ながら、どの作戦がはまるかというのを見極めていきます。事前にノートの情報を見ながらしっかり準備して、引き出しだけは多く持っておきつつ、実際に試合でやってみて自分がどう感じるか。相手も前回と全く同じ攻め方はして来ないので、もし「ちょっと違うな」と感じたらその情報は捨てて、そのときに感じたままやる、という意識で試合に臨んでいました。

テニスの魅力は「言葉のキャッチボール」

石井氏
―もう一回テニス人生をやり直すとしたら、もっとこうすればよかったと思うことはありますか?

今西氏:うーん、あんまりないですね(笑)。しいて言うなら、土でできたクレーコートでの試合を小さいうちからもっとやってみたかったです。テニスのコートにはいくつかの種類がありますが、その中でもクレーコートは、バウンドした後の球足が遅くなるのでラリーが続きやすい、という特徴があります。そして、使われている土質や天候などによってボールのバウンドの仕方や球速、滑りやすさに違いが出たりもします。さぼらずに足を動かしつつ、うまく頭を使って考えないとポイントが取れないコートなんです。
現在世界で主流なのはアスファルトなどを土台としたハードコートですが、クレーコートと比べると、足を動かすのを少しさぼっても返せてしまう。また、日本で最も多い、人工芝に砂がちりばめられたオムニコートは、世界的には普及しておらず海外の大会で使われることはまずありません。そう考えると、小さい頃からクレーコートに慣れて、もっと頭を使う練習ができたらよかったかなとは思います。

石井氏
―今からテニスを始める子ども達には、そういう環境で練習してもらいたいですか?

今西氏:そうですね、やっておいたほうがいいと思います。頭を使って練習することで、新しいアイデアも生まれるでしょうし。最近の子たちを見ていると、自由な発想でプレーしていて面白いですよ。いきなりドロップショットを打ったり、バックスピンをかけたスライスを打ったり。私が子どものころは、スライスを打つと「さぼるな」と言われたりしていたのですが(笑)。今の子たちはいろいろなアイデアを持っていていいなと思います。

石井氏
―テニスに興味のある子どもたちや保護者の皆さんにメッセージをお願いします。

今西氏:テニスには、ほかのスポーツにはない魅力がたくさんあります。テニスを通じて自分自身のことをより深く理解できたり、ボールを通じて相手と言葉のキャッチボールができたり。普段生活しているだけでは学べないことも、テニスを通じてたくさん学ぶことができると思います。プロを目指す、目指さないにかかわらず、生涯スポーツとしてもおすすめなので、楽しみながらずっと長く続けていってほしいですね。


現役最後の大会となった「SBC Dream Tennis Tour」にて(2022年12月)

(聞き手/LOCON株式会社代表取締役、金沢工業大学虎ノ門大学院准教授 石井大貴)

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