会報誌

子育てで大事にしたいのは「しつけ」と「言葉で伝える力」 フリーアナウンサー 尾崎 朋美さんインタビュー

「我が子にどんな人に育ってほしいか」「子育てする上で何を大切にしたいか」「育児と仕事をどう両立するか」など、子育て中の親御さんたちは日々いろいろなことに頭を悩ませているのではないでしょうか。気象予報士の資格を持つアナウンサーとして第一線で活躍し、現在は一児の母として育児に奮闘している尾崎朋美さんも、そんな新米ママの一人。出産を機に大きく生活が変わったという尾崎さんに、試行錯誤の日々やご自身のキャリアなどについてお話を伺いました。

尾崎朋美氏プロフィール

愛知県出身のフリーアナウンサー、気象予報士。大学卒業後、バーニーズジャパンでの勤務を経て、2007年4月に秋田放送入社。ニュース番組で天気コーナーを担当したことがきっかけで気象の世界に興味を持ち、気象予報士の資格取得のための勉強を始める。2010年3月に秋田放送を退社し、東京でフリーアナウンサーとして活動開始。2012年10月に気象予報士の資格を取得。私生活では2010年に結婚、2022年8月に第一子を出産。

礼儀やマナーには厳しくメリハリをつけて育てたい

石井氏
―昨年8月にお子さんが生まれてから、ご自身の生活は変わりましたか?

尾崎氏:はい、大きく変わりました。一番感じたのが、いろいろなことを全く自分のペースで進められないということ。産前にもイメージはしていたし、周りから話にも聞いていたんですけど、それがすごく新鮮でした。ちょっとお散歩に連れて行こうかなと思ったときに子供がぐずり出しちゃったり、用事があって出かけなければいけないときに限ってうんちでお洋服を汚してしまって時間通りに家を出られなかったり。自分だけ、大人だけだったらパパッとできていたことも、子ども中心のペースだと一つ一つ時間が掛かりますよね。普段フリーアナウンサーとしてお仕事をしているときは、全てのスケジュールを自分で管理しているので、それとは真逆の生活です(笑)。でも3カ月ぐらい経つと、誰かが中心の生活というのにも慣れてきて、今のところは割と楽しく育児ができているかなと思います。

石井氏
―お子さんは男の子ですが、性別が違うことで感じることはありますか?

尾崎氏:私自身は一人っ子で、身近に男の子がいないこともあって、性別がわかったときはすごく心配でした。未知数なところが多くて。でも、今のところ元気に育ってくれているので、わからない部分はあまり自分だけで解決しようとせずに、周りの男の子を育てている先輩方のお話を聞いたり、助けていただいたりしながらやっていこうと思っています。
夫もとても協力的で、子どもをあやしてくれたり、沐浴をしたり、ミルクを作ったりもしてくれます。子育てだけでなく家事も、洗濯や食事の後片付けなどをやってくれるので、すごく助かっています。

石井氏
―幼少期に自分が経験したことなどで、お子さんにもこれは伝えていきたいなと思うことはありますか?

尾崎氏:うちの両親は「挨拶をしなさい」というような、基本的なしつけの部分が厳しかったんです。当時は「うるさいな」と思っていたんですけど、やっぱり子供のころに口を酸っぱくして言われたことは大人になっても覚えているし、大事だなと。そういった礼儀やマナーについては、小さいうちからきちんとしつけをしていきたいなと考えています。今は、ほめて伸ばして、あまり叱らないという方針の親御さんもたくさんいらっしゃると思いますが、「だめなものはだめ」とメリハリをつけて育てていきたいですね。

石井氏
―ご両親は特にどんなところが厳しかったんですか?

尾崎氏:挨拶などの基本的なしつけもそうですし、私は公立の小学校に通っていたんですが、ちゃんと勉強しなさいとか、習い事などでも「自分がやると言い出したことは最後までしっかりやりなさい」ということをよく言われていました。例えば、自分からピアノを習いたいと言って始めたのに練習していなかったら、「あなたが行きたいって言い出したんだから、きちんと練習をして行きなさい」とか。それは大人になってからも生きていることで、子供にも伝えていけたらと思っています。

自分の思いを言葉で伝える力を身につけてほしい

石井氏
―ほかには子育てをする上でどんなことを意識していますか?

尾崎氏:子どもには、自分の思いや言いたいことをきちんと言葉で伝えられるようになってほしいですね。そうやって周囲の人と円滑にコミュニケーションが取れれば、誰からも愛される人になれると思うので。そのためにも、まずは小さいころから家庭の中で、親子でコミュニケーションを取っていくことが大事だと思っています。そして、親が転ばぬ先の杖になりすぎないようにしていきたいです。子どもが自分の気持ちをうまく表現できないのを見ていたら、つい助けてあげたくなってしまうのが親心かもしれませんが、子どもが自分自身の言葉で伝えられるようになるためには、過保護になりすぎずに見守ることも必要かなと考えています。

石井氏
―尾崎さんご自身がまさにコミュニケーションのプロなので、お子さんに伝えられることも多そうですね。

尾崎氏:いえいえ、実は私、コミュニケーションに苦手意識があって。特に学生時代は、友達とのコミュニケーションが思うように取れなくてよく悩んでいたんです。当時は自分の言いたいことを我慢して、相手の言うことに「そうだよね」と合わせることでコミュニケーションをはかろうとしていました。でも、人の言うことばかり聞いて、自分の言いたいことをきちんと主張できないでいると、どこかでひずみが出てしまうというか、自分自身がつらくなってしまうんですよね。そういう自分の経験から、わがままとは違う形で、言いたいことを上手に伝えていくことの大切さを感じるようになりました。

石井氏
―尾崎さんがコミュニケーションに苦手意識があったとは驚きました。どこかでブレイクスルーするきっかけがあったんですか?

尾崎氏:新卒で入った会社で接客をしたことがきっかけで、少しずつ変わっていったと思います。接客のお仕事って、自分の言いたいこと、つまり商品の魅力を上手に伝えて買ってもらわないといけないんですよね。買う気がないお客さんがいたとして、それなら買わなくていいですよ、と言ってしまってはお仕事にならないですから。接客が上手な先輩や同僚は、うまくお話をしながら商品の魅力を伝えているうちに、お客さんがだんだん楽しそうになってきて、笑顔でお買い物をしてくれるんです。そういう姿を見ながら、上手なコミュニケーションの取り方を学んでいった部分はありますね。それが、話を聞く・伝えるというアナウンサーの仕事にも生かされていると思います。

石井氏
―接客とアナウンサー、一見全く違う業種なのにリンクしているのが面白いですね。ちなみに、アナウンサーに転身したきっかけは何だったのですか?

尾崎氏:実は、大学を卒業するときにアナウンサー試験も受けていたんです。結局違う業界に入ったものの、ずっとどこかでアナウンサーの仕事をやりたいと諦めきれずにいました。そこで、25歳になるときに、これでやらないと後悔するなと思ってチャレンジすることに。今思えば、小さいころから両親に「自分がやりたいと思ったことはやり切りなさい」と言われていたことも、影響していたのかもしれませんね。
お天気に興味を持ったのは、秋田放送でニュース番組のお天気コーナーの担当になったのがきっかけです。秋田は、冬は雪が多いですし、農業や漁業に関わっている方が多いこともあって、天気予報を重視している方が多いんです。当時は私自身に資格がなかったので、気象台の人に電話して聞いたり、提携している気象会社の人が書いた原稿を読んだりしていました。そんな中、これだったら自分で天気を予報して、自分で原稿を書けた方が楽しいなと思うようになり、少しずつ気象予報士の勉強を始めました。秋田放送を退社して東京に戻ってから試験を受け、4回目のチャレンジで合格することができました。

子育ても仕事も全ての経験をつなげて生かしたい

石井氏
―尾崎さん自身の今後のキャリアについてはどうお考えですか?

尾崎氏:まだ子どもが生まれて間もないので、今は子どもがいながら働くというのはどういう感じなのかなといろいろイメージしているところです。これまでは、私一人で、自分の経験を自分の仕事にだけ生かしてきたけれど、子どもができたことで、その経験をまた違った目線から生かしていけたらと思っています。また、これまで私は仕事一直線で、あまり家のことをきちんとできていなかったのですが、これからは家庭と仕事のバランスを取りながらいい働き方をしていきたいです。家庭のことも大事にしながら、世の中の役に立つ仕事をしていけたらいいですね。

石井氏
―尾崎さんはマルチタスクがお上手そうなので、子育てと仕事の経験をそれぞれに生かしていけそうですね。

尾崎氏:いえいえ、マルチタスクが苦手だからこそ、今までは仕事ばっかりになってしまっていたんです(笑)。でもやはり、子育ても仕事も全部つながっているというか。何か一つのことを経験しているとしたら、それは全てほかのことにも生かせると思うので、子育ても「大変だなぁ」と思うだけで終わらずに、何らかの形で仕事に生かして社会の役に立てていきたいです。この先も、しんどいなと思うことや、うまくいかなくてつまずくこともあると思いますが、それも一つの経験だととらえて、次にどう生かせるか前向きに考えてみたいです。

石井氏
―自分一人で苦しんでしまったり、子育てがうまくいかずに悩んでしまっている親御さんも多いと思うのですが、どんなメッセージを伝えたいですか?

尾崎氏:あまり一人で抱え込まずに、大変なときは大変だと周りの人に相談してしまっていいと思います。私は幸いにも周りに相談できる人がいるので、それはすごく恵まれていてありがたいなと思うんですけど、やっぱりどんどん自分から発信して、困っていることは助けてもらうということが大事なんじゃないかなと。ちょっとあつかましいぐらいに、しんどいので助けてくださいってお願いしてみてください。そして、時間はかかったとしても、皆さん自身やご家族にとってより幸せになる方に意識を向けていけたらいいのではないかなと思います。

(聞き手/LOCON株式会社代表取締役、金沢工業大学虎ノ門大学院准教授 石井大貴)

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