自分の子どもには、大きな夢を描き、叶えられる人になってほしい。そんなふうに願う保護者の方もきっと多いことでしょう。では、夢を叶えるために必要なことは何でしょうか? そして、そのために親ができることは? 今回は、社会人になってからチアダンスを始め、35歳にして米国プロスポーツの最高峰であるNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の専属チアリーダーとなった本田 景子氏に、夢を叶えるまでの道のりや、ご両親に感謝していることなどについてお話を伺いました。
1982年、神奈川県生まれ。4歳からクラシックバレエを習い、大学入学前にチアリーダーのパフォーマンスを見て憧れを抱く。明治学院大学卒業後、神鋼商事に就職。2007年度、富士通フロンティアにてチアリーダーとして活動開始。bjリーグ、NBL、Bリーグ等のチアリーダー歴任。2018年度から2023年度まで、NFLジャクソンビル・ジャガーズの専属チアリーダーを務める。2022年からは子ども向けダンスレッスンの講師としても活動開始。
「積み重ねの大切さ」が原動力に
石井氏
―ご自身はどんなお子さんでしたか? 何が今の自分の原点になっていると思いますか?
本田氏:小さい頃から運動は得意で、とにかく足が速かったです。そして、大の負けず嫌いでした(笑)。「絶対に誰にも負けたくない」という気持ちが強く、毎日腿上げをしたり、走り込みをしたり。その結果、リレーの選手には毎年欠かさずに選ばれていました。そんな経験から、「同じことの積み重ねが自分の身になる」ということを、子どものころから実感してきました。今思うと、それが大事だったなと。「積み重ねの大切さ」を幼いうちから感じて来られたことが、私にとって夢を叶えるための大きな力になりました。
石井氏
―小さい頃から、努力で結果を出すという成功体験を積み重ねて来られたのですね。
本田氏:私の場合は、結果が出せて本当にラッキーだったし、幸せでした。でも、もちろん、何もやらずに結果を出してきたわけではありません。例えば、ダンスがうまくなるには、踊るための筋肉が必要です。それには体の土台作りが大事で、じゃあそのためにはどんな筋トレをしたらいいのか。具体的な行動にまで落とし込み、毎日実行するということを積み重ねていくのです。ただ「ダンスがうまくなりたいな~」と思っているだけではなく、目標を達成するにはどうしたらいいのかを常に考え続けること。夢を叶えるためには、それが一番大事だと思います。
石井氏
―ダンスは小さいころから習い始めたのですか?
本田氏:4歳から14歳までの10年間、クラシックバレエを習っていました。そのころから、舞台に立って人前で踊ることが大好きでしたね。自分のパフォーマンスによって、見ている人が笑顔になってくれるということがすごくうれしかったんです。ただ、当時はバレエ自体が好きというより、親にやらされていたところもあって。一度バレエから離れてみたくなり、中学・高校では違うスポーツを頑張っていました。そんな中、ある大学の文化祭でチアリーダーのパフォーマンスを見て、「またダンスをやりたい」という気持ちが芽生えて来たんです。そこで、大学生になってからジャズダンスを始めました。
チア未経験でオーディションに合格
石井氏
―大学入学後、チアダンスではなくジャズダンスを始めたのはなぜですか?
本田氏:本当はすぐにでもチアダンスを始めたかったのですが、私が入学した大学のチアダンス部は当時立ち上がったばかりで、まだ人数も少なくて。自分がイメージしていた感じとちょっと違ったんです。それならまずは自分でダンススキルを磨こうと思って、カルチャーセンターのジャズダンスのレッスンに通い始めました。そこで改めて踊ることの楽しさを感じ、もっとスキルアップしたくなったので、本格的なダンススクールに通うことに。途中からは、大学のダンスサークルにも入って、スクールとサークルを掛け持ちしていました。
石井氏
―大学卒業後は一般企業に就職されたわけですが、チアダンスの道に進むことになったきっかけは何だったのですか?
本田氏:就職してからも、ダンススクールには週1回、あくまでも趣味の一つとして通っていました。ところが、社会人3年目ぐらいにときにふと思ったんです。ずっと心のどこかで、チアをやりたい気持ちを引きずったまま社会人になってしまったなと。そこで、チアについて自分なりに調べてみました。すると、チアには大会などで点数を競う「競技」としてのチアと、「応援」のためのチアがあることが分かって。応援のためのチアであれば、私でも今からできるかもしれないという希望を持って、富士通フロンティアというチームのオーディションを受けに行ったんです。その結果、合格することができて、チアの道に進むことになりました。
石井氏
―チア未経験にもかかわらず一発合格とはすごいですね! やはりそれまでのバレエやジャズダンスなどの経験が生きたのでしょうか?
本田氏:チアはやったことがなかったので、オーディションでは、恐らくそれまで積み重ねて来たダンス力が評価されたのだと思います。ただ、そこからが本当に大変でした。それはもう、ノイローゼになるかというぐらい(苦笑)。一般的に、ダンスをうまく踊るだけだったら、協調性というのはそこまで求められないんです。でも、チアの場合はとにかく協調性が大事なので、これまでやったことのないことをたくさん覚えなければいけなくて。バレエやジャズダンスとは全然違ったので、本当に苦労しました。最初のころはよく泣いていましたね。
夢の大舞台での感動がモチベーションに
石井氏
―それでも諦めずにチアを続けて、日本を代表するチアリーダーにまで上り詰めることができたのはなぜだと思いますか?
本田氏:本当に何度も壁にぶち当たって、チアをやめようかとも思いました。でもラッキーなことに、チアを始めて一年目に、東京ドームで踊ることができたんです。東京ドームで踊るということは、当時の私にとってはまるで夢のようなこと。その大舞台を経験したときに、それまで大変だったことが一瞬で消え去ってしまいました。「ここに立つために今までの苦労があったんだな」「頑張ってきてよかったな」と。そのときの感動が忘れられなくて、ずっとチアを続けて来られたような気がします。
石井氏
―アメリカに渡ってからは、言葉の壁やさまざまな障壁があって、日本に帰りたいと思ったこともあるのではないでしょうか?
本田氏:何度もあります(笑)。日本でもアメリカでも、悔しい思いをたくさんしてきました。センターで踊っていたのに、パフォーマンスを評価してもらえずに後ろのポジションに回されてしまったこともありますし。でも、やっぱりチアが好きという気持ちと、大舞台に立ったときの達成感や観客の歓声というのは本当に忘れられないものがあって。何にも代えられない経験なんですよね。私の場合、いろいろな悔しさや壁を越えるためのモチベーションはそこにあるのだと思います。
石井氏
―お話を伺っていると、スタジアムの光景や雰囲気などを、常に自分の中で明確なイメージとして描いていらっしゃるように感じます。これも夢を叶える上でのポイントと言えるでしょうか?
本田氏:そうですね。とにかく常に「なりたい自分像」を具体的にイメージするようにしています。これはよく子ども達にも話すのですが、夢を叶えるためには、小さな目標をたくさん作ることが大事。その小さな目標が集まって、大きな実を結ぶんだよと。例えば、私がチアを始めた当時の目標は、まずは東京ドームで踊ることでした。そして、その目標に向かって頑張り、叶えることができました。その後、バスケットボールのチアリーダーになったので、今度はバスケの聖地である代々木体育館で踊ることを目標にしました。そして、それを叶えたら、次はNFLのスタジアムで踊ることを目標に。そうやって目標を立てて、一つクリアしたら次はこれ、またクリアしたら次はこれ、という感じでここまで進んできました。
米フロリダ州ジャクソンビルに本拠地を置くジャガーズの専属チアリーダーとして活躍
厳しかった親の「導き」に感謝
石井氏
―夢を叶えるために、保護者のサポートはすごく大事だと思います。幼少期に、親御さんから言われていたことなどはありますか?
本田氏:私の親は、あまり細かいことを言うような親ではなかったのですが、バレエでもそれ以外でも、とにかく1位でなければ許してもらえなかったし、練習も休ませてもらえませんでした。でも、そのおかげで、「一回一回の練習の積み重ねが実を結ぶ」という意識を持てるようになったのだと思います。そういう意識を幼いうちに自分だけで持つことは難しかったと思うので、親が導いてくれたことに今はすごく感謝しています。
石井氏
―昨今、「自由教育」とか「子ども自身に決めさせる」ということを奨励する風潮がありますが、子どもに意識を持たせることは親の仕事でもあると。
本田氏:そう思います。だから、親がどれだけ多くの選択肢を持たせてあげられるか、意識をどう向かせられるか。その「導き」が、親としては一番大事なんじゃないかなと。私は幸せなことに、これまで自分で立てた目標は全て叶えることができました。でも別に、両親やほかの誰かから、具体的な方法を教えてもらったわけではありません。こればかりは誰にどう言われても、結局は自分で考えなければ成し遂げられないものです。その点、私は親の導きのおかげで、幼いころから「目標はこうすれば達成できる」ということを感じ取ることができました。だからこそ、自分なりに夢を叶える方法を見出すことができたのだと思います。
石井氏
―NFLの専属契約は2023年度をもって一旦満了されました。今後の抱負についてはどう考えていらっしゃいますか?
本田氏:私ももういい年齢になりましたが、アメリカはあまりそういうことには関係なく実力を評価してくれる国なので、今の気持ちとしては、また別のチームのオーディションに挑戦したいなと考えています。ここからが自分にとってのチア第二章だと思って、これからも頑張っていきたいです。
(聞き手/株式会社LOCOK代表取締役、金沢工業大学虎ノ門大学院准教授 石井大貴)