会報誌

英語の上達に必要なのは「ちょっとの勇気」 ~カギは「間違えたら恥ずかしい」の壁を破ること~

 

英語で授業を行う「イマージョン教育」を掲げ、小中高の12年一貫教育を実施している「ぐんま国際アカデミー(GKA)」。国際バカロレア(IB)認定校でもあり、卒業後は海外の有名大学に入学する生徒も多いといいます。そんなGKAにおいて、就学前の子どもたちを対象としたプリスクールで指導している大澤 恭子氏とマーティン・オベッド氏。今回はお二方に、幼少期の英語教育で大切なことや、音楽や歌をふんだんに使ったクラスでの指導方法などについてお話を伺いました。

ぐんま国際アカデミー(GKA)プレスクール 大澤 恭子氏(上)
マーティン・オベッド氏(下)

大澤氏・マーティン氏プロフィール

「ぐんま国際アカデミー(GKA)」のプリスクールにて、長年にわたり就学前の子どもたちを指導。「ちょっとの勇気」をモットーに、間違えることを恥ずかしいと思わず、積極的にコミュニケーションすることの大切さを日々伝え続けている。大澤氏は今年で勤続18年目、マーティン氏は5年目を迎える。

先生のオリジナル曲で楽しく英語を覚える

石井氏
―GKAプレスクールでは、子どもたちにどんなことを教えているのですか?やはり、もともと英語が話せる子が多いのでしょうか?

大澤氏:ちなみに、クラスで歌う歌の多くは、マーティン先生が作詞作曲したオリジナルなんですよ。そのときの子どもたちの気持ちを歌ってみたりして。子どもたちも、自分に近い歌詞だから覚えやすいみたいで、不思議なほどよく口ずさんでいますね。

マーティン氏:外国籍のお子さんが多く、おうちでも普段から英語を使っている方が多いですね。一方で、初めて英語を学ぶというお子さんもいらっしゃって、入学してすぐの4月、5月ごろはその差がすごく大きかったりします。ただ、だんだんと馴染んできて、夏休みが明けたころからは、ほぼ同じぐらいのレベルになっていきます。半年ぐらいで、だいたい並びますね。

GKAプリスクールのクラスの様子

石井氏―半年で並んでしまうのですね!それだけ短期間で英語を習得するために、先生方はどのような工夫をされているのでしょうか?

大澤氏:一番大事なのは、子どもたちのことをよく知って、心を開かせることではないでしょうか。この子は何を学びたいのかな、この子はどれぐらいできるのかなと、私たちのほうから歩み寄るように常に心掛けています。子どもたちの心が開いてくると、言葉も自然に出るようになるんですよね。

マーティン氏

とは、音読やライティングなどの宿題を少しずつ出して、おうちでも英語に触れてもらうようにしています。また、家に帰ってからも好きな英語の歌をYouTubeで聞いたりしているような子は、やっぱり成長が早いなと感じています。

石井氏
―私も先日クラスを見学させていただきましたが、本当にたくさんの歌を歌っていて、「こんなに歌うんだ!」とびっくりするほどでした。

マーティン氏:そうですね。クラスでは私がギターを弾いて、子どもたちと一緒に英語の歌を歌います。「みんなで歌うと楽しいから」というのも理由の一つですが、それだけではなく、音楽のリズムに乗せることで、脳が刺激される。そうすると、自然と言葉が覚えやすくなるのです。

大澤氏:ちなみに、クラスで歌う歌の多くは、マーティン先生が作詞作曲したオリジナルなんですよ。そのときの子どもたちの気持ちを歌ってみたりして。子どもたちも、自分に近い歌詞だから覚えやすいみたいで、不思議なほどよく口ずさんでいますね。

石井氏
―マーティン先生のオリジナル曲とはすごいですね!やはり、音楽に合わせて歌うことで英語が覚えやすくなるのでしょうか?

マーティン氏:これはスーパーの音楽みたいなものだと思っていて。スーパーって、いつ行っても同じ曲が流れていますよね。買い物に行くたびに毎回聞いているから、自然と覚えてしまう。子どもも同じです。はじめは歌詞の内容がわからなくても、何度もくり返し歌っているうちに、自然に覚えてしまうようです。

大澤氏:音楽に乗せると、恥ずかしいという気持ちがなくなりますしね。シャイな子でも、歌なら歌ってみようかなと思える。やっぱり、はじめはだれでも「間違えたら恥ずかしい」という気持ちがありますよね。その壁を乗り越えてもらうためにも、歌というのは効果的なのではないかと思います。

英語は自分の世界を広げるための「道具」

石井氏
―初めて英語に触れる子もいるというお話でしたが、クラスは最初から全て英語で行われるのでしょうか?

マーティン氏:私はなるべく日本語を使わないようにして、何かあったときには、大澤先生に日本語でフォローしてもらうようにしています。

大澤氏:やはり、最初のうちは「あぁ、もう目いっぱいかな」というときもあって。その子がどれほどの勇気を出して英語を口にしているのか、顔を見れば本当に手に取るように分かるのです。それが先生に通じないとなると、相当なストレスになりますよね。ですから、二人とも絶対に日本語は使わないと決めているわけではなく、私はどうしても必要なときは日本語で補足したりもしています。

マーティン氏:それから、子どもたち同士で教え合うように促すこともあります。私の言っていることが分からない子がいたら、「他に分かる人はいるかな?」と聞いてみて、分かっている子に説明してもらう。私はそれを手伝うようにしています。

石井氏
―お二人は、英語を学ぶ目的についてはどう考えてらっしゃいますか?

大澤氏:私は、英語は「道具」、つまり何かを学ぶための手段だと思っています。英語ができれば、日本のみならず、広い世界のステージで学ぶことができる。ですから、特別で専門的な英語というよりは、世界に飛び込んでいくための道具としての英語を身に付けてほしいと思っています。実際にGKAの卒業生たちを見ると、英語をツールとして使いこなしている方が多いので、とても誇りに感じています。

マーティン氏:英語を勉強するのは、「コミュニケーション」ができるようにするためだと思います。私が教えている子どもたちにも、将来、世界中の人とコミュニケーションができるようになってほしいです。コミュニケーションができれば、ビジネスでも何でもできるし、相手を理解することもできる。自分の世界が広がりますよね。

石井氏
―宿題では音読やライティングにも取り組むとのことですが、英語で話せるようになるだけではなく、読み書きできる力もバランスよく伸ばしたほうがいいとお考えですか?

大澤氏:そうですね。リスニング・リーディング・ライティング・スピーキング、この4つの力を全て伸ばしてあげることが大事だと思います。将来的には全部必要になりますから。実際には、話すことはできても書くのは苦手、という子が圧倒的に多い気がします。でも、やはり書くことも大事だし、英語が読めると楽しいと思うんですよね。自分の力で英語の本が読めたり、海外に行ったときに標識が読めたり。とてもワクワクすると思うので、一つ一つの力をしっかり身に付けて、組み立てていくことが大事だと思います。

「正しくしゃべらなきゃ」より「ちょっとの勇気」を

石井氏
―「今、この子伸びているな」と感じるのはどんな瞬間ですか?

大澤氏:真剣な顔をして話を聞くようになったときとか、その子の態度が変わったときですかね。見ていて「あれっ!」と思う瞬間があります。あとは、音読の宿題を聞いた親御さんから、お子さんがすごく上手に読めるようになった、という声を聞くこともありますね。自分でしっかり練習し、それを親の前で読んでサインをもらう。そのプロセスを通じて、親御さんたちも感心するほど、子ども達はどんどん上達していきます。

マーティン氏:私たちの教室には、プリスクールの卒業生で初等部に進学した子がよく遊びに来てくれます。そのときに、英語の本や雑誌を持っていたりするんです。そういう姿を見ると、その子の生活の中に自然と英語が入ってきているのだなと思ってうれしくなります。

石井氏
―特に印象に残っているお子さんはいますか?プリスクールでは大変だったけど今はしっかり活躍しているなど、成長を感じるエピソードがあればぜひ教えてください。

大澤氏:たくさんいますよ!みんなちゃんとプロセスを踏んで大きくなっているなと実感します。私たちは、これから小学1年生になる子たちを教えているわけですが、毎年、その年に卒業する高校3年生の子たちがボランティアで教室に来てくれるんですよ。これから入る子と巣立っていく子をいっぺんに見られる。こんなにうれしいことはないですよね。今は小さい子ども達も、12年後にはこうなるんだというのがよくわかって、とてもやりがいがあります。

マーティン氏

プレスクールに入ったときには英語が全くしゃべれなかった子が、久しぶりに会うとすごく上手にしゃべれるようになっていたりします。私はここに来てからまだ5年ぐらいしか経っていませんけど、今小学3年生や4年生になっている子と会うと、英語は正しくはなくても、前よりシャイじゃなくなっていたり、コミュニケーションできるようになっている。そういう子どもたちの姿はたくさん見ています。例えば、プリスクールのときにはふざけていた子であっても、今はちゃんとあいさつをしてくれる。「あぁ、変わったね」と思ったりしますね。

石井氏
―最後に、今英語を学んでいる、もしくはこれから学ぼうとしているお子さんやその親御さんたちに、どんなことを伝えたいですか?

大澤氏:お父さん、お母さん、そしてお子さん自身に、「とにかく勇気を持ってください!」とお伝えしたいです。間違いに対して、英語圏の方ってすごく優しいんですよ。みんな寛容で、理解しようと努力してくれます。だから、「正しくしゃべらなきゃ」という気持ちは捨てて、どんどん積極的に話してみてほしいですね。私たちは子どもたちにいつも「ちょっとの勇気」と言っているのですが、その勇気を持って臨んでいただきたいです。苦手意識という鎧を着る前に、ぜひトライしてみてください!

マーティン氏:なぜ日本人は英語でコミュニケーションを取るのが苦手なのか、私の考えでは、「間違えたら恥ずかしい」という気持ちがあるからだと思います。ですから、子どもたちには、「間違えてもいいんだよ、恥ずかしいことじゃないよ」と、ママやパパからも言ってもらえるといいのかなと。英語を学び始めたばかりの小さいうちからそういうふうに考えられるようになれば、子どもたちはどんどん伸びていくと思います。

(聞き手/株式会社LOCOK代表取締役、金沢工業大学虎ノ門大学院准教授 石井大貴)