会報誌

放っておくと怖い「鼻水」 家庭でできるケアとは? ~シースター株式会社 山藤 和將氏 インタビュー

子どもにしばしば見られる、鼻水や鼻づまり。風邪・花粉症・アレルギーなど、その原因は多岐に渡り、一年を通して悩まされているという親御さんも多いのではないでしょうか。子どもは免疫機能が未熟なため、大人と比べて頻繁に風邪をひきやすく、鼻水がよく出ます。また、昨今では、花粉やダニなどのアレルギー性鼻炎の発症が低年齢化し、小さいお子さんの鼻水の原因にもなっているのだとか。今回は、そんな身近な症状である「鼻水」について、そのままにしておくとどうなるのか、吸引することの重要性や病院を受診する目安などを電動鼻水吸引器「メルシーポット」を販売するシースター株式会社 広報部 山藤 和將課長に伺いました。

山藤 和將氏プロフィール

電動鼻水吸引器「メルシーポット」などを開発・販売しているシースター株式会社にて、広報部・営業部の課長として従事。10年以上にわたって、多数の小児科医・小児耳鼻科医の先生方と関わり、鼻水吸引の大切さを研究してきた。プライベートでは、一児の父として子育てに奮闘中。

鼻水をきちんと吸うことで多くのメリットが

石井氏
―鼻水をそのままにしておくと、どうなるのですか?

山藤氏:鼻水の中には、ウイルスや細菌などの病原体が含まれています。鼻水をそのままにしておくと、耳の中に菌が入って中耳炎になったり、ひどい場合にはそれが悪化して、周囲の骨まで溶けてしまったりすることもあります。小さいお子さんは、自分では鼻がかめないので、きちんと吸ってあげる必要があるのです。昔は、薬を使って鼻水を抑える治療が一般的でしたが、現在は吸引をメインとした治療法が広まっています。

石井氏
―よくある症状だからと放置してしまってはいけないのですね。鼻水を吸引することによって、他にはどんな影響がありますか?

山藤氏:呼吸が楽になることで、ミルクを良く飲めるようになったり、夜よく眠れるようになるなど、多くのメリットがあります。赤ちゃんは、口で呼吸ができません。ですから、鼻が詰まると十分に息を吸うことができず、さまざまな健康被害が起きてしまうのです。私たちが病院の先生方と協力して実施した調査でも、鼻水を吸引することで、赤ちゃんの「夜間覚醒回数」、つまり夜中に起きる回数が減るという結果が出ました。このような医学的根拠もありますし、単純に考えても、鼻水を吸うと楽になるということはイメージしやすいかと思います。

石井氏―一日何回ぐらい吸引するのが効果的ですか? やりすぎるのも良くないのでしょうか?

山藤氏:回数の制限などはないですが、あまり無理に吸引して鼻の粘膜を傷つけてしまうと、少し出血するといったことはあるかもしれません。特に日中は、鼻の中が多少なりとも乾いている状態です。ですから、そういうときに過度に吸引するのはおすすめしません。逆に、お風呂上りや食事で温かいスープを飲んだ後など、鼻の粘膜が温まって湿潤しているときには吸いやすいです。寝かしつけのことも考えると、お風呂上りや夕食後などのタイミングで吸引するのがおすすめです。

石井氏
―鼻水吸引は家庭でもできるケアですが、病院に行くべきかどうかはどう判断すればいいですか?

山藤氏:実際に親御さん自身では判断できず、「鼻水が出たらすぐ病院に行く」という方が多いようです。ただ、鼻水自体は病院で一度吸引しても、結局またすぐに出てきてしまうんですよね。ですから、病院の先生から「おうちでもしっかり吸ってあげてください」と言われるケースもあるようです。鼻水が出るだけで他の症状がないのであれば、ご家庭でのケアで様子を見てもよいのではないかと思います。もちろん、中耳炎や外耳炎などの可能性がある場合は、すぐに病院を受診したほうがよいでしょう。例えば、鼻水の色が黄色や緑色になったりするのは一つの目印になります。

苦しむ赤ちゃんやお母さんたちを助けたい

石井氏
―今、日本中でどのぐらいのご家庭で鼻水吸引器が使われているのでしょうか?

山藤氏:「鼻水吸引器」には、主に3つの種類があります。一つ目は、チューブを使って直接口で吸うタイプ。二つ目は、シリンジを手で握って吸引する「手動式」。そして三つ目が、私たちも手掛けている「電動式」です。これら全てを合わせると、赤ちゃんのいるご家庭の約7~8割程度が鼻水吸引器を使っている計算になります。このうち、口で吸うタイプはもうほとんど出回っていません。「手動式」と「電動式」は、それぞれメリットとデメリットがありますが、「手動式」は両手を使う必要があり、赤ちゃんを抱っこしながらだとどうしても吸引しづらい。なので、片手でも操作できる「電動式」が選ばれやすいようで、現在主流となっています。

石井氏
―そもそも、なぜ子ども向けの自動鼻水吸引器を開発することになったのですか?

山藤氏:当社は創業当時より、偽札の検知器や駅のホームにある人感センサーなど、制御機器を中心に展開していました。そんな中で、こうした技術を人に対しても役立てたいという思いから、医療機器の分野に参入しました。最初に開発したのは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんが、まばたきで文字を入力できるセンサー機器です。さらに、同じくALSの患者さん向けに、唾液や痰の吸引器などを開発しました。すると、ある医療従事者の方が「この機器をアレンジして、鼻水を吸えるようにできませんか」と。その一言がきっかけで、家庭用の自動鼻水吸引器を開発することになりました。これが今から17~18年ぐらい前のことです。

石井氏
―医療の現場でも、家庭での鼻水吸引に対する関心が高まっていたのですね。

山藤氏:そうですね。というのも、当時は子どもの中耳炎の罹患率が今よりも高かったんです。しかも、家庭での鼻水ケアといえば、親がチューブを使って直接口で吸っている時代でした。でも、それだとどうしても、お子さんの風邪が親にも移ってしまいます。そして、親御さん自身も体調が悪い中、何度も小児科に通わなければならない。このように、親子で辛い思いをされることが多かったのです。それならば、鼻水吸引を電動化することで世の中の親御さんたちを助けたい、社会問題を解決したい。そのような思いで「メルシーポット」を開発し、現在に至ります。

石井氏
―鼻水吸引のほかに、赤ちゃんにとって身近なヘルスケアに「口腔ケア」があります。こちらに対してはどのようにアプローチされていますか?

山藤氏:歯肉炎や歯周病などのリスクを減らすためにも、赤ちゃんのうちから歯磨きを習慣化することはとても大切です。ところが、実際には歯磨きが嫌いな赤ちゃんが多い。毎日苦労しながらお子さんの歯を磨いている親御さんもいらっしゃることでしょう。そもそも赤ちゃんがなぜ歯磨きを嫌がるのかというと、「痛いから」。親御さんたちは一生懸命磨こうとするのですが、それが赤ちゃんにとっては想像以上に痛いらしいのです。そこで、少しでも歯磨きを好きになってもらおうと、電動式で優しい磨き心地の歯ブラシを開発し、レインボーカラーで光らせることで視覚的にも楽しめるようにしました。

ホームメディカルの分野で育児を支援

石井氏
―今後、赤ちゃんのヘルスケアに関して取り組んでいきたい社会問題はありますか?

山藤氏:乳幼児突然死症候群(SIDS)の問題に取り組んでいきたいと考えています。SIDSとは、それまで元気だった赤ちゃんが、眠っている間に突然死亡してしまう病気です。先日も、保育施設でうつぶせ寝をしていた赤ちゃんが亡くなる事故があり、ニュースになっていましたよね。SIDSについてはさまざまな調査研究が行われているものの、原因解明や予防方法の確立には至っていないのが現状です。そこで、せめてもの対策として、赤ちゃんに異変があったときにすぐ気付けるようなアイテムがあったら。そう考えて、赤ちゃんの体動を感知し、異常があればアラームで知らせてくれる体動センサーを開発しました。

石井氏
―共働き世帯も増えて保育施設の需要がますます高まる中、テクノロジーの力でより安心安全な環境を作っていくことが求められているのですね。

山藤氏:そう思います。前述の事故が起きてしまった保育施設も、そういった機器を取り入れていなかったそうです。もちろん、一番大事なのは、目視で赤ちゃんの状態を確認することです。機器があっても、それによって命が助かるわけではないので。ただ、保育士の数が足りていない状況で、人の目だけで確認するというのは無理があると思うのです。ですから、センサーで赤ちゃんを見守ることで、少しでも保育士さんの負担を和らげたい。そして、保育施設だけでなく、ご家庭や病院でも、赤ちゃんの異変にいち早く気が付くためにこうした機器を役立ててほしいと願っています。

「BabyTech® Awards 2023」にて安全対策と見守り一般部門で大賞を受賞(左が山藤氏)

石井氏
―赤ちゃんのヘルスケアを推進する上で、どんなことを重視していますか?

山藤氏:当社が重要視していることは、「難しくない製品を作る」ということです。昨今、いろいろな企業が子育て関連のグッズを出していますが、使い方が難しいものが多いんですよね。「高機能で見た目がかっこいい」とか「スマホと連動できて便利」とか……。それが大事なのもわかるのですが、育児で忙しい親御さんに対してそれを説明したところで、使いこなせなくては仕方ありません。それなら、ボタン一つで使ってもらえるようなシンプルなもののほうが、本当の意味で役に立つのではないかと考えています。

石井氏
―最後に、乳幼児のお子さんを持つ保護者の皆さんへメッセージがあればお願いします。

山藤氏:子育て中で大変な思いをしている親御さん達には、「育児は一人でやるものではないですよ」ということをお伝えしたいです。少し前までは、育児と言えばお母さんが一人で頑張るケースが多かったかもしれませんが、現在はお父さんの育児参加も増えてきていますし、国としても少子化対策などに力を入れている状況です。「育児はみんなで一緒にやっていくもの」というところを目指して、私たちもホームメディカルの分野で支援していきたいと思っています。

(聞き手/株式会社LOCOK代表取締役、金沢工業大学虎ノ門大学院准教授 石井大貴)

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