会報誌

プログラミング教育で身に付く力とは? ~大事なのは答えを導き出すまでのプロセス~

小・中・高校でプログラミングが必修化され、2025年度の大学入試からは「情報I」が共通テストの試験科目に加わるなど、プログラミング教育の重要性は高まるばかり。最近では、習い事としてプログラミングを学ぶお子さまも増えているといいます。今回は、年長・小学生・中学生のための本格的な学習を提供するプログラミング教育 HALLO®を運営する株式会社YPスイッチ 取締役 鳥海 最氏と、プログラミング教材「Playgram ™」を開発した株式会社Preferred Networks エンジニアリングマネージャー 丸山 史郎氏に、プログラミングを学ぶ意義や身に付く力などについてお話を伺いました。

株式会社YPスイッチ 取締役 兼 事業本部 本部長 鳥海 最氏

鳥海氏氏プロフィール

慶應義塾大学経済学部卒。株式会社リクルートキャリア(現リクルート)やAIベンチャーの事業開発職を経て、やる気スイッチグループに入社。事業統括室にて新規事業・アライアンス事業を担当し、プログラミング教育事業を立ち上げから主導。2022年9月より現職。

株式会社Preferred Networksエンジニアリングマネージャー丸山 史郎氏

丸山氏プロフィール

九州大学大学院で博士(情報科学)を取得。現在は株式会社Preferred Networksにおいてプログラミング教育アプリ「Playgram」の開発を担当し、教育へのテクノロジー応用を模索中。休日は6歳と3歳の息子の成長の瞬間を楽しんでいる。

「プログラミング的思考」と「考える力」を育む

石井氏
―まずは、学校におけるプログラミング教育の現状について教えてください。

鳥海氏:プログラミング教育は、小・中・高校ですでに必修化されています。小学校では、主に算数や理科の理解を補うためにプログラミング的な考え方を使うような授業が行われています。例えば、「正三角形をプログラミングを使って書きましょう」といった内容です。中学では「技術・家庭」の時間で、高校では共通必修科目である「情報Ⅰ」の時間において、すべての生徒がプログラミングを学んでいます。来年からは、大学共通テストの試験科目に「情報I」が加わり、国立大学を受験するうえでも必須科目に、そして「情報Ⅰ」の問題のうち半分以上がコンピュータサイエンスやプログラミング領域から出題されることになっています。

石井氏
―プログラミングを学ぶことで、どういった力が育まれるのでしょうか?

丸山氏:自分が意図する結果を得るために、どういった順序でプログラムを組み立てていけばいいかを論理的に考える力、いわゆる「プログラミング的思考」が身に付きます。まずは頭の中でシミュレーションして、思いついたらそれをプログラミングして動かしてみる。自分の頭で考えた結果が正しかったのかどうか、実際に動かして確かめることができるので、そこが子どもたちも楽しいのかなと思います。

鳥海氏:「プログラミング的思考」に加えて、「考える力」も育まれます。ここで言う「考える力」は、「投げ出さずに考え抜く」というスタンスのことです。例えば、我々のグループが運営する個別指導塾スクールIEに通っているお子さまの中にも、はじめは数学や国語の問題が分からないと投げ出してしまう子がいました。でも、そういったお子さまが並行してプログラミングを習い始めると、半年、一年と経つうちに、数学や国語の問題にも粘り強く取り組めるようになっていくんですよね。プログラミングを学ぶことで、「読み解く力」「整理する力」が身に付くということ、そして「考えれば答えが出るんだ」「自分にもできるんだ」という成功体験を積み重ねられることが大きいのではないかと思っています。

子ども達はプログラミング教室で楽しみながらさまざまな力を身に付けていきます。

子どもが試行錯誤する過程を見守ることが重要

 

石井氏
―もともとはどのような背景でプログラミング教室を立ち上げたのですか。

鳥海:我々やる気スイッチグループは、「子どもたちの“宝石”を見つけて輝かせる」ということを大事にしています。その「宝石」が何なのかは、時代によっても大きく変化していきます。そこで思ったのは、これからの世代を生きていく子ども達にとって、ITもしくはプログラミングの考え方や知識を学ぶことは必要不可欠になるだろうということ。われわれは個別指導塾や英語で預かる学童保育などいろいろな事業を運営していますが、次はプログラミング領域のブランドを立ち上げて世に貢献したいと考えていました。ちょうどその頃、Preferred Networksさんと出会い、協業でプログラミング教室を立ち上げることになりました。

石井氏
―子どもたちはどんなときに「面白い!」と感じて目を輝かせるのでしょうか?

鳥海:Playgramで学び始めると、最初のほうはゲーム感覚で、割と簡単にスイスイと進んでいくんです。でも、やっているうちにだんだん難しくなってくる。そこで子どもたちの表情が一回曇るんですよね。「何だこれ」「わからないぞ」と。椅子から立ち上がってグルグル歩き回ったりする子もいます。そうやって一生懸命考えて、何度も失敗しながら試行錯誤して、ようやくクリアしたとき、「できた!」と目の色が変わるのが分かりますね。

丸山:私もたまに教室を見に行くんですけど、子どもって、大人が思う以上に自分だけでちゃんと答えを見つけ出せるんです。私が「これはちょっと難しいんじゃないかな」と思うような問題でも、意外と一発で解いてしまうこともありますし、すぐにはクリアできなくても真剣に取り組んでいる姿を見ると「楽しんでくれているんだな」と嬉しくなります。やらされているのではなく、本当に自ら進んでやってくれているのだなと実感しました。

石井氏
―プログラミングを学ぶ子どもたちに対して、親としてできることなどはありますか?

鳥海:大人にとってはすぐにわかるようなことでも、子どもにとっては難しい場合もありますよね。そういうときに、隣で見ている親御さんがムズムズしてしまって、つい「ここはこうでしょ」と口を出してしまうケースがよくあります。でも、プログラミングは、解くことがゴールなのではなくて、答えを導き出すまでの過程が大事なんですよね。頭の中で「ああでもないこうでもない」とグルグル考えて、実際に動かしてみて、どこが間違っていたんだろうとまた考える。その思考が大切なので、親御さんにはぜひ温かく見守っていただけたらと思います。

新たな才能に気付き自分に自信を持てるように

石井氏
―今まさにプログラミングを学んでいる子どもたちに、どんなことを期待したいですか。

丸山:プログラミングを入り口として、いろいろなものに興味を持ってほしいなと思います。現代社会では、情報科学だけでなく、どんな分野や領域であっても、プログラミングが基盤にあるんですよね。ですから、プログラミングからつなげて、好きな分野で成長していってほしいです。私としては、プログラミングを学んだお子さまが、自分でソフトを作るなど、次の段階にも手を伸ばしていけるように、はしごを作ってあげたいなと思っています。

石井氏
―プログラミング教育の観点から、これからの時代を生きる子ども達をどのように支援していきたいとお考えですか?

鳥海:我々は、プログラミング教育を単に「子どもの習い事」で終わらせたくないと考えています。今後は、子ども達が学んだことを教室の中だけでなく、実世界で生かせるように、より専門的かつ特定の技術を学べる環境を全国的に整えていきたいです。また、学んだ内容が社会的に承認・表彰されるような、コンピュータサイエンス全般の検定を作りたいと思っています。英検や漢検のような影響力のある、日本のコンピュータサイエンス教育の羅針盤となるような検定を作れれば、日本の国力にも寄与できるし、子ども達の成長や可能性を広げることにもつながるはずだと信じています。

石井氏
―最後に、読者である親御さんたちに向けてメッセージをお願いします。

鳥海:これだけプログラミング教育の重要性が叫ばれている昨今、ぜひ体験会など少しの時間でもいいので、まずはお子さまをプログラミングに触れさせてみていただきたいです。私は、プログラミング教育を通じて、お子さんの隠れた宝石・才能を見つけられる可能性があると信じています。我々の教室に初めて来るとき、「この子は運動も勉強もだめなんです」と言う親御さんが結構いらっしゃり、隣のお子さまもしょぼんと座っていることもよくあります。しかし、HALLOに通っていただいて一年ぐらい経つと、その子にとってプログラミングが自分の“好き”や“自信”になり、プログラミングはもちろんのこと、他の分野にも興味・関心を広げていくことが非常に多いのです。

丸山:私も2児の父親なのですが、教育に関しては自分の価値観を押し付けないことが大事かなと思っています。我々が子どものときと今では、価値観も求められる能力も違います。例えば、昔は、ゲームはあまりやってはいけないものという考えが一般的でしたが、今ではもう社会全体にデジタルデバイスが溢れていますし、その入り口としてゲームやプログラミングに触れるというのもありだと思うのです。ゲームに限らず、親から見て「これって本当に役に立つのかな?」と疑問に思うことでも、子どもが興味を持つのであればどんどんチャレンジさせてあげるといいのではないでしょうか。

(聞き手/株式会社LOCOK代表取締役、金沢工業大学虎ノ門大学院准教授 石井大貴)

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