
長年にわたって世界を舞台に戦い続け、日本男子テニス界を支えてきた元プロテニスプレーヤー、添田 豪さん。100位以内に入れば“世界トップクラス”と言われる世界ランキングで自己最高47位を記録し、オリンピックや国別対抗戦デビスカップでも日本代表として活躍。現役引退後は、デビスカップの日本代表監督に就任し、テニス界の発展や次世代選手の育成に関わる活動を行っています。そんな添田さんに、ご自身の幼少期やトップアスリートに上り詰めるまでの過程、次世代の子どもたちへのメッセージなどを語っていただきました。
元プロテニスプレーヤー・男子テニス日本監督 添田 豪氏
1984年9月5日生まれ、神奈川県出身。粘り強いラリーと安定したストロークを武器にATPツアーを中心に世界のトッププレイヤーたちと戦い、世界ランキング自己最高は47位(2012年)。ロンドンオリンピック日本代表。四大大会にも多数出場し、日本男子テニスの国際的な存在感を高めた選手の一人。国別対抗戦デビスカップにも日本代表として長く出場し、チームを支える中心選手として活躍。堅実なプレースタイルと精神力の強さは、多くの若手選手の手本となっている。2022年に現役を引退し、現在はテニス界の発展や次世代選手の育成に関わる活動を行っている。
テニスとサッカーに巡り合った少年時代
石井氏
―ご自身はどのようなきっかけでテニスを始めたのですか?
添田氏:親がテニスをしていたので、小さい頃から一緒にやったりしていました。テニスクラブに入ったのは4歳のときです。始めた当初から楽しかったですね。わりとすぐにラケットにボールが当たるようになったし、そういう意味では向いていたのかなと。
子どもの頃の添田氏(中央)
石井氏
―すぐにボールが打てるようになったということですが、何か小さい頃から意識して鍛えていた能力などがあったのでしょうか?
添田氏:いやいや、それはないです。たまたま球技が自分の特性に合っていたというか。僕、子どもの頃はサッカーもやっていたんですよ。逆に体操や水泳は苦手だったので、もしそちらを先にやっていたら、スポーツに対してあまりいいイメージは持てていなかったかもしれません(笑)。たまたまテニスとサッカーに巡り合えて、それが僕には合っていた。ラッキーでしたね。サッカーは、小学校5年生までテニスと並行して続けていました。
石井氏
―たしか、全国大会で初めて優勝されたのが小学校6年生ですよね? その直前までサッカーも並行してやっていたということですか?
添田氏:はい。海外だと、テニスのトップ選手が子どもの頃違うスポーツをやっていたという話は珍しくありませんが、日本ではあまり聞かないかもしれませんね。僕の場合は、テニスのほうがだんだん試合も練習量も増えて忙しくなってきて。何となく5年生ぐらいからは、自然とテニス一本に絞られていきました。それからは、平日は週5で学校から帰ってすぐにテニスコートに行き、夜まで練習するという生活が高校まで続きました。
石井氏
―小学校6年生で日本一になってからずっとトップをキープされて、まさに「天才」というイメージの添田さんですが、周りの方に聞くと「ずっと同じペースで同じ練習を続けられる、まさに努力の人」だと。
添田氏:そういう見方をしてもらえたのはうれしいですね。僕自身、反復練習が苦にならないタイプで。わりとコツコツやるのが好きだったので、努力したというよりは、飽きずに自然と続けられた。それが周りからは、「努力」という形で見えていたのかなと思います。
他人と比べずマイペースにコツコツと
石井氏
―39歳で引退されるまで、現役生活が長かったですよね。周りの選手たちが次々辞めていく中で、どうやってモチベーションを保ち続けたのですか?
添田氏:やっぱり基本は、「コツコツやり続ける」ということ。それが自分の中で一番大きかったです。高校卒業後、プロになって海外に出たときに、同世代との大きな差を感じたんですよね。彼らの多くは、20歳前後でもう世界のトップに立っていましたから。もし自分が無理にそのペースに合わせたら、きっとどこかで挫折してしまう。だから、自分はもうスローペースでいいと考えていました。僕をジュニアのころから見てくれていたコーチも同じように考えていて。当時の僕はまだ体が小さくて線も細かったので、ゆっくり体を作っていけばいいと言ってくれました。
石井氏
―ジュニアのころからそこまで長い目で見てくれる指導者って、なかなかいないのではないですか?
添田氏:はい、僕はすごくラッキーだったと思います。大体みんな焦ってしまうんですよ。どうしてもすぐに結果を求めてしまって。20代前半までには世界ランキング100位に入って、グランドスラム(テニスの四大国際大会)の本戦に出て、というリミットみたいなものが当時からありましたから。今はそれがさらに早まっているように感じます。錦織 圭選手や西岡 良仁選手のような存在が出てきて、より低年齢のうちから世界のトップに行く流れになっていますよね。
石井氏
―ご自身はどのようにして焦る気持ちを抑え、「これでいい」と自分を信じ続けることができたのでしょうか?
添田氏:他人に干渉しなかったのが良かったのかもしれませんね。あと、周囲からの評価よりも、「今自分が何をすべきか」に注力していました。いい意味でも悪い意味でも、マイペースにやれていたのだと思います。自分が試合に勝ったときの記事を集めたりもしなかったし、逆に調子が悪くて結果が出ないときに批判されてもあまり気にしていませんでした。
現役時代の添田氏
石井氏
―そうやって考えられるのはご本人の特性によるところが大きいと思うのですが、例えば幼少期を振り返って、そういう考え方になった原因などは思い当たりますか?
添田氏:僕は三人兄弟の末っ子で、上の兄たち二人とは年齢も少し離れているんです。なので、もともと家庭でも一人で遊んだりするのが好きでした。もしかしたらそのころから、自分に目を向けることが自然とできていたのかもしれません。
若手とベテランの融合が生む“突破力”
石井氏
―デビスカップ日本代表監督として、どんなことを意識してチーム作りをされていますか?
添田氏:ありきたりかもしれませんが、まずは情熱あるコーチを集めること。これが第一です。あとは、そこに若いコーチを何人か加えることで、コーチの育成にも取り組んでいます。若いコーチが育っていけば、僕が辞めた後でも、その世代が日本テニス界を引っ張っていける。また、優秀な人材が海外に出て、世界を代表するコーチに成長してくれれば、日本の力も上がっていくだろうと期待しています。
石井氏
―コーチを選定する上で、特に重視しているのはどのような能力ですか?
添田氏:基本となるのは、コート上でのコーチング能力です。声の掛け方や指導力はもちろんのこと、プロの選手を相手にする以上、ある程度その場を仕切る力や、臆せずコミュニケーションを取れることが重要になります。どれだけティーチングのノウハウがあっても、実際にトッププロに指導するとなると、どうしても緊張するものです。そうした状況でも物怖じせず、的確に伝えられる力。そういった総合的な力を見て人材を選んでいます。
石井氏
―若いコーチと年上のコーチのバランスについてはどう考えていますか?
添田氏:年上のコーチと仕事をすると、安定感があって大きなミスは出にくいのですが、殻を破るような新しい挑戦が生まれにくい印象もあります。一方で若いコーチは、自分にはない情熱やエネルギーを持っていて、新しいアイデアを積極的に出してくれる。その勢いを生かしつつ、「ここはこうしよう」とブレーキを掛けたり方向性を示したりすることで、チームとしての突破力が生まれるんです。自分が監督になった以上、新しいことに挑戦したいと思っていたので、まずは若いコーチを積極的に集めました。そのうえで、年上のコーチには相談役のような立場で支えてもらう体制をとっています。
デビスカップ日本代表監督として指揮を執る添田氏
テニスだけに閉じず広い視野で成長を
石井氏
―日本のテニス界の育成について、気になっていることや改善したい点はありますか?
添田氏:技術面に関しては、以前に比べて全体的にレベルが上がっていると思います。一方で気になるのが「人間的な成長」の部分です。コートに立っている時間というのは、一日のうち数時間。むしろそれ以外の時間の方が長く、さまざまな人と関わりながら生活していくことになります。そうした場面での振る舞いや考え方が未熟だと、結果的に損をしたり、テニスにもマイナスの影響が出てしまうことがある。だからこそ、技術だけでなく、人間的な部分まで指導できるコーチやスタッフがいる環境が必要だと考えています。
石井氏
―テニスの技術だけではなく、人間力を高めることが大切なのですね。
添田氏:そう思います。今は情報がとても多い時代で、精神的に不安定になってしまう子も少なくありません。子どもはまだ自分でブレーキをかける力が十分ではないので、スマートフォンなどを通じてネガティブな情報に流されてしまうことがあります。だからこそ、社会性や人との関わり方を身につけていくことが必要だと感じています。これはテニスプレーヤーに限らず、一人の社会人としても大事なことです。そうした力を若いうちから身につけておくことで、将来的にとても楽になるのではないかと思います。
石井氏
―今テニスを頑張っている子どもたちや、それを支える親御さんたちにメッセージをお願いします。
添田氏:子どもたちには、テニスに全力を注いでもらいたい一方で、テニス以外のことにも目を向けてほしいです。テニスだけに意識が偏ってしまうと、どうしても苦しくなってしまうので。テニスはテニスで100%取り組む。でもそれ以外の時間は割り切って、別の生活や経験も大切にしてみてください。親御さんたちには、お子さんが苦しくなったときの逃げ道というか、いわば余白のようなものを作っていただきたいです。どこにも逃げどころがない状況では、子どもはつぶれてしまう可能性があります。子どもたちには体力面でも精神面でも健康で、何より楽しく生きていってもらいたい。そのためにも、テニスの世界だけに閉じるのではなく、広い視野を持って成長していくことが大切だと思います。
イベントにて子どもたちと交流する添田氏
(聞き手/株式会社LOCOK代表取締役、金沢工業大学虎ノ門大学院准教授 石井大貴)





